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招待研究

本領域では、第2期(2013-2014年度)の招待研究を下記の公募要領に従って募集します。多くの方の応募を期待します。

本領域は、20 万年前の新人ホモ・サピエンス誕生以降、アフリカを起点にして世界各地で漸進的に進行した新人と旧人ネアンデルタールの交替劇の経過を記述し、その経緯をヒトの学習という視点から調査研究し、交替劇の真相究明を目指す。具体的には、交替劇の原因は、両者の間に存在した学習能力の違いで説明できるとする作業仮説を立て、それを裏付ける数理生物学に基づく理論的研究とともに、考古学、文化人類学、環境科学、生体力学、神経科学諸分野の研究に基づく具体的証拠に依拠して作業仮説を実証的に検証するプロジェクトである。

研究項目A01、A02は、考古資料の分析に基づいて両者の学習行動を再構築するとともに狩猟採集民における学習行動の実態を調査し、ヒト社会における学習行動の進化の様態を明らかにする。研究項目B01、B02は、両者の間で生得的な学習能力差が生じ、それが文化の進化速度などの違いをもたらす過程を分析するとともに交替期の環境変化を復元し、作業仮説の理論的根拠を明らかにする。研究項目C01、C02は、化石頭蓋・脳鋳型の復元およびその中に存在した脳(化石脳)を仮想復元し、その古神経科学的分析結果と新たに作成する現代人脳の学習機能地図を融合させ両者の学習能力の違いを明らかにする。 上記全体構想の目的達成のため、下記の研究項目について、「計画研究」により重点的に研究を推進するとともに、関連する2年間の研究を公募する。1年間の研究は公募の対象としない。なお、研究分担者を置くことはできない。公募研究の採択目安件数は、単年度当たり(1年間)の応募額150万円を上限とする研究を9件程度予定している。

期待する提案は大きく二つに分類できる。一つは、下記の研究項目の研究目的と密接に関連するが、対象とする素材や分析手法において補完する内容で、本領域の充実と強化に資する研究、もう一つは、研究項目の枠を越える内容で、とりわけ本領域の重点テーマ「交替劇」「学習」「化石脳」のもとに研究項目間の連携研究を指向する挑戦的な研究である。

なお、当該公募研究応募要領については、文科省ホームページ「平成25年度科学研究費助成事業‐科研費‐(新学術領域研究、特定領域研究、特別研究促進費)の公募 公募要領・計画調書のダウンロードページ」で確認してください。
研究項目:
A01 考古学資料に基づいた旧人・新人学習行動の実証的研究
A02 狩猟採集民の調査に基づくヒトの学習行動の特性の実証的研究
B01 ヒトの学習能力の進化モデルの研究
B02 旧人・新人時空間分布と気候変動の関連性の分析
C01 三次元モデリング技術に基づく化石頭蓋の高精度復元
C02 旧人・新人の学習行動に関する脳機能マップの作成

平成23年度公募研究: 平均配分額 1,478千円  最高配分額 1,500千円

領域略称名:交替劇
領域番号:1201
設定期間:平成22年度~平成26年度
領域代表者:赤澤 威
所属機関:高知工科大学総合研究所

2011-2012年度招待研究

研究課題名:北海道の旧石器時代石器群における石器接合資料分析をもとにした学習行動の復元
研究代表者:髙倉 純
所属 ・ 職名:北海道大学・大学院文学研究科・助教
研究協力者:鈴木宏行:財団法人北海道埋蔵文化財センター
直江康雄:財団法人北海道埋蔵文化財センター
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
先史人類の学習行動に関しては、石器接合資料の比較分析にもとづいた技量差の認定とその空間的配置の分析を通じて把握が可能である。本研究計画では、北海道の後期旧石器時代石器群、とくに白滝遺跡群の調査から得られた豊富な石器接合資料を用いて、先史人類の学習行動の復元を試みるとともに、既存の当該研究分野における技量差の認定基準や学習過程のモデル化を検証する。
【研究方法】
本研究計画では、以下の項目についての研究を進めていく。(1)石器接合資料分析や先史人類の学習行動に関する国内外の先行研究を網羅的にレヴューし、学習行動の復元を進めていくうえでの問題点の所在を突き止める。(2)白滝遺跡群から得られた石器接合資料に関しては、剥離工程の復元と剥離方法の同定を試みたうえで、接合資料間の比較から技量差の認定をおこない、その空間的位置関係の分析から学習行動の復元を目指していく。(3)事例分析で得られた成果をもとに、石器接合資料分析にもとづいた技量差の認定基準や学習過程のモデルに関する既存研究の検証をおこなう。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
これまで提示されてきた技量差の認定基準や学習過程のモデル化の検証をおこなうために、学習過程や石器接合資料分析に関する既存の研究の再整理および白滝遺跡群の接合資料の再検討を進め、有意な論点の抽出、学習行動の復元に適した資料体の選択、分析属性の吟味をおこなっていく。
【研究方法】
2011年度には以下の事項について研究をおこなう。(1)石器接合資料分析や先史人類の学習行動に関する国内外の先行研究を網羅的にレヴューする。とくに日本やヨーロッパでの研究の現状と課題を整理し、当該研究分野における有意な論点の抽出をはかる。(2)白滝遺跡群から得られた石器接合資料に関して、剥離工程の復元と剥離方法の同定を試みる。そして、接合資料間の比較から技量差の認定をおこない、その空間的位置関係の分析を進めていく。
関連業績
【口頭発表】
  • Takakura, J.
    2007. Identification of blade and microblade flaking techniques in the Upper Paleolithic assemblages of Northern Japan. 72nd Annual Meeting of Society for American Archaeology. Austin, USA. 2007. 4. 29
  • 髙倉 純
    2008「北東アジアの細石刃石器群における剥離方法の問題」『第9回北アジア調査研究報告会』北海道大学、2008. 3. 15.
  • 髙倉 純
    2010「白滝遺跡群をめぐる研究史と課題」『第26回北海道旧石器文化研究会定例研究会』北海道大学、2010. 9. 25.
  • 髙倉 純
    2011「石器接合資料分析の方法」『第27回北海道旧石器文化研究会定例研究会』北海道大学、2011. 3. 26.
【雑誌掲載論文】
  • 髙倉 純
    2007「石刃剥離技術の理解をめぐる一試論―北海道の細石刃石器群を対象として―」『北方圏の考古学』Ⅰ: 34-46.
  • 髙倉 純
    2007「北海道紋別郡遠軽町奥白滝1遺跡出土石器群における剥離方法の同―石刃・細石刃剥離方法の同定とその意義に関する一考察―」『古代文化』58(Ⅳ): 98-109.
  • Takakura, J.
    2007. New evidence of endscraper reduction in Upper Paleolithic Japan. Current Research in the Pleistocene 24: 40-43.
  • 髙倉 純
    2008「北海道勇払郡厚真町上幌内モイ遺跡旧石器地点出土の旧石器時代石器群における剥離方法の同定」『論集忍路子』Ⅱ: 41-48.
  • 髙倉 純
    2009「北海道の細石刃石器群における剥離方法の研究をめぐる問題点」『吉田学記念文化財科学研究助成基金研究論文誌まなぶ』2: 1-8.
【著書・同掲載論文】
  • 髙倉 純
    2007「石器製作技術」佐藤宏之編『ゼミナール旧石器考古学』50-64. 同成社
研究課題名:投擲運動の学習プロセスの解明
研究代表者:日暮泰男
所属 ・ 職名:大阪大学・大学院人間科学研究科・助教
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
現在、人類は他の霊長類に類がないほど多様な環境の中で生活している。幅広い環境への適応が可能となったのは、人類進化において認知機能が発達し、それに伴って学習行動が適応手段としての重要性を増したためであろう。化石人類の認知機能と運動の学習プロセスを推測するための手がかりは、過去の道具である。これまでに発見されている最古の槍は約40万年前のものと推定されており、旧人は槍を狩猟道具として使用していたことが示唆されている。本研究課題の目的は、とくに槍の投擲動作に関して生体力学的研究をおこなうことにより、(1)約40万年前以後の化石人類の認知機能と運動の学習プロセスを解明すること、そして(2)人類の上肢形態と投擲との関連性を検討するための基礎的データを提供することである。
【研究方法】
一般の現代日本人を対象として、投擲動作に関する詳細な運動解析をおこなう。投擲物としては槍と石を用いるが、とくに槍については過去の槍の材質・寸法・重量を参考としたレプリカを製作する予定である。旧人はシンプルな木槍と鋭利な石器が矢尻として取り付けられた槍の2種類の槍を使い、新人は槍の飛距離を伸ばすための槍投げ器(spear thrower)を利用しはじめたことが示唆されているため、進捗状況に応じて複数種類の槍を採用する可能性もある。また、化石人類と現代の狩猟採集民がどのような文脈で投擲をおこなうのかを文献調査により明らかにする。解析には、身体各部の動きを定量化するビデオ式運動解析システムと表面筋電図を使用する。これらに加えて、可能ならば床反力計による計測や数値シミュレーションを用いて、身体の発揮する力を算出する。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
化石人類の認知機能と運動の学習プロセスを解明するという本研究課題の全体的な目的に加えて、初年度は効果的な実験のノウハウの確立に重点をおき、次年度には運動データの収集と解析に専念できるよう、研究環境の整備につとめる。初年度の研究方法は(1)投擲物の製作、(2)文献調査、(3)運動実験である。
【研究方法】
(1)シンプルな木槍と石を最初の実験の投擲物に採用する。木槍については文献調査をおこない、材質・寸法・重量に関する情報量と年代を基準として、レプリカの見本となる木槍を選定する。石については旧人と同時代の石器群を参考にする予定である。
(2)化石人類と現代狩猟採集民が投擲物を使用する文脈(どのような標的に対してどれくらいの距離から投擲するのか等)に関する文献を渉猟し、本研究課題の全体的な目的を遂行するのに有効な実験デザインの作成に役立てる。
(3)実験協力者に槍を用いた投擲課題をおこなってもらい、主としてビデオ式運動解析システムと表面筋電図により解析する。投擲運動の学習のプロセスを明らかにするために、可能な実験協力者には数ヶ月の期間にわたる定期的な実験参加を要請する。
研究課題名:狩猟採集民の身体とフィットネス:「遊び」と「食」からみた子どもの環境適応能
研究代表者:山内太郎
所属 ・ 職名:北海道大学・大学院保健科学研究院・准教授
研究協力者:萩野 泉:北海道大学・大学院保健科学院・M2
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
研究項目A02 が取り組む「文化人類学的参与観察」と「発達心理学的実験」を補完する「生物人類学・ヘルスサイエンス的調査」を実施する。具体的には、「遊び」と「食」の視座から狩猟採集民の子どもの「身体」と「体力」を定量的に評価することによって『学習仮説』の検証に貢献することを目的とする。
2011年度は1996年より断続的に調査を継続しているカメルーンBAKA ピグミーを対象として集約的に調査を行い、2012年度は同様の方法論を用いて他の狩猟採集民(アボリジニ、イヌイト)の比較調査を行う予定である。
【研究方法】
(1) 狩猟採集民の子どもの「身体」
身体計測によって、栄養状態・成長状況を評価する。成長曲線の分析から「子ども期間」を生物学的に決定する。
(2) 狩猟採集民の子どもの「遊び」
「遊び=身体活動」ととらえ、加速度モニタリングによりエネルギー消費量、歩数を測定する。子どもの行動・活動を個体追跡・スポットチェック観察、GPS を援用し、1日の時空間利用として定量化する。
(3) 狩猟採集民の子どもの「食」
直接秤量および聞きとりによる食事調査を実施する。食品成分表を用いて、エネルギーおよび各種栄養素摂取量を推定する。さらに、食生態学的トピックスについて評価する。 (4) 狩猟採集民の子どもの「体力」
日・亜・欧の既存の体力テストをベースに狩猟採集民に適したテストを開発・実施する。年齢や発育(体格向上)とともに、体力テスト成績がどのように変化(向上)するか、遊びに消費されるエネルギー量および単位時間当たりのエネルギー効率が発育とともにどのように変化するかを検討し、学習効果を定量的に評価する。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
2011年度はフィールド調査(身体、遊び、食、体力)の各種方法論を確立・検証するとともに、1996年より断続的に調査を継続しているカメルーンBAKA ピグミーを対象として集約的に調査を行う。
【研究方法】
(1)「身体」…身体計測の方法、測定部位、サンプルサイズの同定。性・年齢別の栄養状態および成長曲線の作成、成長曲線の解析による「子ども期間」(開始、終了、年数)の算出。
(2)「遊び」…身体活動量(エネルギー消費量)測定法(心拍数か加速度か活動記録か)、測定日数、時間帯(朝から夕方までか、夜間は?)の検討。超小型GPS の利用可能性の確認。1日総エネルギー消費量のうち、「遊び」が占める量を算出。単位時間当たりのエネルギー消費量(エネルギー効率)の算出。
(3)「食」…秤量法の具体的方法、24 時間思い出し法、食物摂取頻度法などとの整合性の確認。算出する栄養素の種類の決定。エネルギー消費量と摂取量を比較してエネルギーバランスを確認。食品群ごとの摂取量を算出し、性・年齢で比較。食生態学的データ(誰とどこで何をどのように食べているか、食物の分配など)を収集し、解析。
(4)「体力」…文科省・新体力テスト、アジア標準体力テスト、ユーロフィット(欧州)についてそれぞれの体力テスト項目を検討し、狩猟採集民の子どもに利用可能で妥当性の高い方法論を開発・実施。
関連業績
【口頭発表】
  • Yamauchi T., Kon S., Kubo H., Lekprichakul T., Sakurai T. and Umetsu C.
    2011 Longitudinal monitoring survey on the growth and nutritional status of adults and children living in contrasting ecological zones in Zambia. Resilience2011: Second International Science and Policy Conference, Tempe, AZ, USA, March 11-16.
  • Yamauchi T. and Maeda C.
    2011 Body size and blood pressure of adults: from the viewpoint of aging and seasonality. Health, Disease and Social Change in Guadalcanal, Solomon Islands. Research Finding Dissemination Workshop. Honiara, Solomon Islands, February 15-16.(招待講演)
  • Yamauchi T., Hayashi K., Kawamura K. and Sato H.
    2011 Nutritional adaptation of Pygmy hunter-gatherers in Cameroon: from the viewpoint of body size, physical activity, and dietary intake. International Conference on Congo Basin Hunter-gatherers. Montpellier, France, September 22-24.
  • Yamauchi T., Yoshimura A. and Mexitalia M.
    2010 Physical fitness and nutritional status of urban and rural school children in Indonesia. The 10th International Congress of Physiological Anthropology. Fremantle, Australia, September 9-12.
  • 山内太郎
    2010「伝統社会におけるフィールドワーク:ライフスタイル、食と栄養の視座から」『第15 回日本フードサービス学会年次大会』日本フードサービス学会 成蹊大学2010.5.15 成蹊大学(招待講演)
  • 山内太郎
    2008「成長と生活環境・ライフスタイル」『日本民族衛生学会シンポジウム』日本民族衛生学会 パシフィコ横浜2008.11.26(招待講演)
【雑誌掲載論文】
  • Yamauchi T., Nakazawa M., Ohmae H., Kamei K., Sato K. and Bakote'e B
    2010 Impact of ethnic conflict on the nutritional status and quality of life of suburban villagers in the Solomon Islands. Journal of Nutritional Science and Vitaminology, 56 (4), 227-234.
  • Yamauchi T., Lekprichakul T., Sakurai T., Kanno H., Umetsu C. and Sokotela S.
    2008 Training local health assistants for a community health survey in a developing country: longitudinal monitoring of the growth and nutrition of children in Zambia. Journal of Higher Education and Lifelong Learning. 16, 67-75.
  • Yamauchi T., Kim SN., Lu Z., Ichimaru N., Maekawa R., Natsuhara K., Ohtsuka R., Zhou H., Yokoyama S., Yu W., He M., Kim SH. and Ishii M.
    2007 Age and gender differences in the physical activity patterns of urban school children in Korea and China. Journal of Physiological Anthropology, 26,101-107.
  • 山内太郎、石森大知、中澤港、河辺俊雄、大塚柳太郎
    2007「遺伝および環境要因と思春期の成長、栄養状態―南太平洋ソロモン諸島の3集団の比較―」日本成長学会雑誌13: 27-37.
  • Yamauchi T., Midorikawa T., Hagihara J. and Sasaki K.
    2007 Quality of life, nutritional status, physical activity, and their interrelationships of elderly living on an underpopulated island in Japan. Geriatrics and Gerontology International. 7: 26-33.
【著書・同掲載論文】
  • Yamauchi T., Kubo H., Kon S., Lekprichakul T., Sakurai T. and Kanno H.
    2011 Growth and nutritional satus of Tonga children in rural Zambia. Vulnerability and Resilience of Social-Ecological Systems, 104-111. Research Institute for Humanity and Nature.
  • Yamauchi T. and Kon S.
    2010 Variation in the nutritional status of adults living in contrasting ecological zones in the southern province of Zambia. Vulnerability and Resilience of Social-Ecological Systems, 45-52. Research Institute for Humanity and Nature.
  • 山内太郎
    2009「環境と身体の多様性―成長・栄養とライフスタイル」『オセアニア学』京都大学学術出版会. 215-225.
  • Yamauchi T., Ishimori D., Nakazawa M., Kawabe T. and Ohtsuka R.
    2009 Influence of socioeconomic and genetic factors on the growth and nutritional status of Pacific Islander adolescents. In Ashizawa K, Cameron N (eds.) Human growth in a changing lifestyle. 47-56. Smith-Gordon.
  • Yamauchi T., Hayashi K., Kawamura K. and Sato H.
    2009 Nutritional status, physical activity, and dietary intake of Pygmy huntergatherers in Cameroon. In Louts T, Reitenbach M, Molenbroek J (eds.) Human Diversity: design for life. 9th International Congress of Physiological Anthropology Proceedings, 78-81. University of Technology, Delft.
  • Yamauchi T.
    2009 Growth and nutritional status of children and adults living in contrasting ecological zones in the southern province of Zambia. Vulnerability and Resilience of Social-Ecological Systems, 41-49. Research Institute for Humanity and Nature.
  • 山内太郎、大西秀之、西村雄一郎、岡本耕平
    2008「生業転換とライフスタイルの変容」『モンスーンアジアの生態史 3 くらしと身体の生態史』弘文堂. 85-106.
研究課題名:現生人類集団中に見られる絶滅古人類起源ハプロタイプより両者の混血と交替劇を探る
研究代表者:嶋田 誠
所属 ・ 職名:藤田保健衛生大学・総合医科学研究所・講師
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
近年、現生人類のゲノム多型情報を用いることで、人類集団が経験した過去のイベントを解明できるようになってきた。また最近は、ネアンデルタール人のゲノム情報が公開されたことにより、現生人類のゲノムや類人猿ゲノムとの比較が可能になった。さらにそれにより、ネアンデルタール人の生物情報を再構築することも可能になった。 そこで、ゲノム配列を中心とした生物情報を組み合わせて解析することで、混血イベントの詳細について、あるいは現代人と絶滅古代人との生命機能における違いについて、解明することを目的とする。
【研究方法】
ヒトゲノム・プロジェクトから約10年を経て、ヒトのゲノム情報は多型情報と密接に結びついて発展した。とくに最近では個人ゲノム情報や多型データベースの情報が飛躍的に増加している。このような現生人類集団の多型情報を解析することで、現生人類集団は過去において、ネアンデルタール人のような、一度分かれて長期間独立に進化をしてきた集団と混血していたことが示唆されるようになった。
また、最近ネアンデルタール・ゲノムが徐々に利用可能になってきた。ネアンデルタール人の試料はゲノム解読以外に生物学的実験に用いることはできないが、ヒトや様々なモデル生物のゲノム配列情報には、様々な実験で得られた生物情報が結び付けられており、様々なデータベースとして公開されている。このような現生種で得られた生物情報をネアンデルタール・ゲノム配列情報に結び付けることによって、ネアンデルタール人が生きている時の生物学的情報を再構築することができると期待される。
そこで、本研究では現生人類集団多型情報、ネアンデルタール・ゲノム情報、現生種の様々な生物情報を組み合わせて、次の3つのアプローチで研究する。
(1) 既報の絶滅古代人起源とされるハプロタイプにおける生物情報再構築:
我々の先行研究では、極端に古い一つのゲノム領域(ハプロタイプ)が稀ではあるが、世界各地の様々な現生人類集団に広く分布しており、長らく隔離していた集団が現代人の拡散過程で混血していたことを示唆した(Shimada et al., 2007)。ネアンデルタール・ゲノムの解析においても、そのような混血を伺わせるハプロタイプが報告されている(Green et al. 2010)。これら既報のハプロタイプの配列について、現在明らかになっている生命現象に重要な既知配列を結び付けることによって、これらのハプロタイプのもつ遺伝子発現における特徴を把握する。
(2) ネアンデルタール・ゲノムの遺伝子発現関連配列の解析:
類人猿との分岐以降、ヒトへの進化における顕著な速度の変化はゲノムの配列ではなく、遺伝子発現様式にあるとされている。現在すでに、ネアンデルタール・ゲノムは現代人のゲノム配列と対応が付けられている。そこで、現代人のゲノム領域中、遺伝子の発現様式、とくにmRNAスプライシングに関わる領域を網羅的に取得し、現代人やチンパンジーと比較することで、ネアンデルタール人の遺伝子発現パターンにおける特徴を理解する。
(3) 多型データを用いた現生人類集団中の古代人を起源とするハプロタイプの新規探索:
現生人類多型データは我々の先行研究のころとは違い、最近はハプロタイプの推定法が洗練され、量質ともに充実している。また、現代人の出アフリカのころ、アフリカ大陸内に長らく生殖的に隔離された人類の分集団があったとされている。そのため、現生人類多型情報を解析することで、ネアンデルタール人以外にも多くの絶滅古人類集団との混血イベントについて、それぞれ時期、場所、程度を高精度に把握することが期待できる。我々は先行研究で用いた、ハプロタイプとSTR多型情報を組み合わせたHapSTRを手掛かりにした方法で高精度な解析を目指す。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
(1) 既に先行研究で議論されている、現代人類集団中に存在する絶滅古代人起源とされるハプロタイプの変異部位が生物学的機能に関係するか、各種データベース(DB)検索を用いて明らかにする。
(2) ネアンデルタール・ゲノム配列において、mRNAスプライシング関連領域内の変異を抽出する。
(3) 現代人類集団の多型データより、古代人を起源とするハプロタイプを新規に同定する。
【研究方法】
(1) 筆者が以前の研究(Shimada MK. et al. 2007)で現生人類集団中に発見した、極端に古いハプロタイプhXや、ネアンデルタール・ゲノム・プロジェクトでネアンデルタール・ゲノム起源とされたハプロタイプについて、その変異部位中、タンパク質機能や立体構造上のドメイン内に存在するものを、データベース(DB)を検索することによって、抽出する。その際利用するDBには、機能ドメインDBであるInterPro、機能性RNAのDBであるfRNAdb、スプライシング関連配列DBであるESEfinder、転写因子結合配列DBであるJASPAR、繰り返し配列DBであるRepeatMasker等を予定している。
(2) ネアンデルタール・ゲノム配列からおもだった遺伝子のスプライシング部位配列を抽出する。これらの配列それぞれについて、ヒトおよびチンパンジーの相同領域との間で比較し、配列間の進化の程度を定量する。そして現生人類とネアンデルタールとの間で特に進化速度に変化のあった遺伝子を同定することを目指す。そのために、今年度はスプライシング関連配列部位を抽出する。
(3) 網羅的にハプロタイプ間の分子系統解析を行い、特に古いハプロタイプを同定することを計画している。そのために今年度は、利用な可能な個人ゲノムや多型のデータベースを調査し、データ収集の仕方やデータの書式、あるいはデータの由来に関する情報をまとめる。それに基づいて、ハプロタイプ抽出のためのプログラム開発を行う。
関連業績
【口頭発表】
  • 嶋田 誠、内山 郁夫、前田 明
    2010 Evolution of spliceosomal proteins: High conservation and low modification, but drastic change in parasitic genome. 『第33回日本分子生物学会年会』ポスター発表 神戸 2010.12.7-10.
  • 嶋田 誠、内山 郁夫、前田 明
    2010 RNAスプライシング機構の進化:スプライシング因子保存性についての網羅的解析、『第12回日本進化学会大会』ポスター発表 東京 2010.8.2-5.
  • 嶋田 誠、前田 明
    2009 Are Spliceosomal Proteins Required to Splice Extremely Small Introns, termed Micro-introns, in non-metazoa?『第32回日本分子生物学会年会』横浜 2009.12.9-12.
  • 嶋田 誠、原口 典子、前田 明
    2009 イントロン長の集計によるスプライシング機構多様性の推定、『日本遺伝学会第81回大会』松本 2009.9.16-18.
  • 嶋田 誠、前田 明
    2009 標準的なスプライシング複合体で遂行されるスプライシング反応系の中に新たな分子機構が存在する可能性を探る、『第11回日本進化学会大会』ポスター発表 札幌 2009.9.2-4.
  • 嶋田 誠、早川陽介、武田淳一、五條堀 孝、今西 規
    2008 H-InvDBを用いたエクソンーイントロン境界領域の保存的GT-AGサイトにおける多型の網羅的解析、『日本遺伝学会第80回大会』名古屋 2008.9.3-5.
  • 嶋田 誠、山口由美、早川陽介、三本松良子、今西 規、五條堀 孝
    2007 H-InvDB と連係した新しいヒト遺伝子多型データベースVaryGene、『BMB2007 (第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学回大会・合同大会)』ポスター発表 横浜 2007.12.11-15.
  • Shimada, M.K., Y. Yamaguchi-Kabata, C. Yamasaki, T. Imanishi, T. Gojobori
    2007 VaryGene, a new satellite database of annotated human polymorphism in the integrated human transcriptome database H-InvDB. American Society of Human Genetics 2007 Annual Meeting, San Diego, California, October, 23-27, 2007.
  • Shimada, M.K., J. Hey
    2006 A worldwide survey of 10.1 kb sequences at Xp11.22 indicates gene flow from archaic to modern human. Gordon Research Conference - Molecular Evolution, Ventura, California, February. 5-10, 2006.
  • 嶋田 誠、Jody Hey
    2005 X 染色体上の10kb 領域の塩基配列による人類集団遺伝学的解析は古代人の遺伝子流動を示唆する、『第7回日本進化学会大会』ポスター発表 仙台 2005.8.26-29.
  • Shimada, M.K., J. Hey
    2005 History of modern human population structure inferred from the worldwide survey on Xp11.22 sequences. The 74th Annual Meeting of The American Association of Physical Anthropologists, Milwaukee, Wisconsin, April, 5-9, 2005.(招待講演)
【雑誌掲載論文】
  • Shimada M.K., Hayakawa Y., Takeda J.-I., Imanishi T., Gojobori T.
    2010 A comprehensive survey of human polymorphisms at conserved splice dinucleotides and its evolutionary relationship with alternative splicing. BMC Evolutionary Biology, 10:122.
  • Shimada M.K., Matsumoto R., Hayakawa Y., Sanbonmatsu R., Gough C., Yamaguchi-Kabata Y., Yamasaki C., Imanishi T., Gojobori T.
    2009 VarySysDB: a human genetic polymorphism database based on all H-InvDB transcripts. Nucleic Acids Research 37: D810-D815.
  • Yamaguchi-Kabata Y., Shimada M.K., Hayakawa Y., Minoshima S., Chakraborty R., Gojobori T., Imanishi T.
    2008 Distribution and effects of nonsense polymorphisms in human genes. Plos One, 3: e3393.
  • Shimada M.K., Panchapakesan K., Tishkoff S.A., Nato AQJr, Hey J.
    2007 Divergent Haplotypes and Human History as Revealed in a Worldwide Survey of X-Linked DNA Sequence Variation. Molecular Biology and Evolution 24:687-698.
研究課題名:サピエンス固有の学習能力の同定
研究代表者:高橋伸幸
所属 ・ 職名:北海道大学・文学研究科・社会科学実験研究センター・准教授
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
新学術領域研究「交替劇」は、ホモ・サピエンスがネアンデルタールと交替し、地球上で唯一のヒトなり、世界全域で生活するようになったのはなぜかを探るプロジェクトである。この交替劇を生じさせた要因としては、サピエンスに特異的に備わった学習能力が挙げられている。即ち、サピエンスは他者の行動を真似る社会学習のみならず、試行錯誤により自ら学ぶ能力を兼ね備えていたため、社会学習能力のみで試行錯誤による個体学習能力の低かったネアンデルタールより優位に立ったのだ、というわけである。しかし、人類学におけるこの議論には大きな問題点がある。それは、心理学的観点に立つと、個体学習能力はサピエンスを含む多数の生物種の能力の基盤であり、いくつかの種でしか見られない「高度な」能力はむしろ社会学習能力の方であること、そして試行錯誤による個体学習能力ではサピエンスがネアンデルタールにとっては未踏の地域に急速に移住していったことを説明できないことである。そこで本公募研究は、サピエンスに特有の能力として、第三の能力、即ち「発明能力」が存在すると想定する。そして、試行錯誤による個体学習能力とは異なるこの発明能力によってのみ、サピエンスはネアンデルタールに対して優位に立ったのだと考える。しかし、このような能力を測定する方法は、心理学の中でもいまだ確立されていない。本研究の第一の目的は、実験室における心理学実験により、この能力の測定方法を確立することにある。そして、個体学習能力と社会学習能力を加えた3つの能力の間の関係について探ることが、第二の目的である。
【研究方法】
本申請研究で用いる研究方法は主に実験室実験である。最初に、サピエンス特有の能力であると考えられる高度な発明能力を実験室で測定可能なタスクを考案する。これまでの学習心理学では、そのようなタスクは作成されていない。多くの場合、実験は動物を用いて行われてきたが、そこでは試行錯誤による個体学習のタスクのみが扱われてきた。そこで本研究では、そのような個体学習能力とは独立の発明能力を測定するため、様々なタスクを実験参加者に行わせ、複数のタスクにおける成績の関係を分析するという手法を用いる。発明能力の測定に成功した場合、次に行うのは個体学習能力、発明能力、及び社会学習能力の3つの間にどのような関係があるのかを明らかにする実験である。先行研究では、個体学習と社会学習の間にトレードオフ関係があるかどうかを巡って議論が戦わされてきたが、本研究の立場ではそのような議論は意味をなさない。それよりも、第3の能力である発明能力との関係を実証データを用いて検討する必要がある。このような研究は全て、申請者と数名の大学院生や学部生でチームを組んで行う。このような大規模な実験は、充実した実験設備に加えて、巨大な実験参加者プールなどのそれを支えるインフラが必要とされるが、北海道大学社会科学実験研究センターには、日本で唯一、そのような環境が整っている。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
2011年度においては、発明能力の同定が目的である。まずこれに成功しなければ、その後の研究の展開はない。
これまでのヒト以外の種を用いた実証研究では、個体学習と社会学習を対比させたものもあるが、そこで扱われている個体学習は全て、試行錯誤による学習であった。例えば、Bouchard, Goodyer, and Lefebvre(2007)はハトの個体学習能力を測定しているが、どのようにレバーを引くと餌が出てくるかということを学習させることをイノベーションテストと呼んでいる。しかし、これは単なる試行錯誤に基づく強化学習である。ハトが様々な行動をとっているうちに、たまたま正しいレバーの押し方をし、餌を食べることができることで、そのレバーの押し方が強化学習されるのである。このような能力は、新たな環境に置かれたヒトがそこで生き延びるために必要である発明能力からはかけ離れていると言わざるを得ない。そこで本研究では、サピエンスを用いて真の発明能力を測定可能な課題を作成することを目的とする。
【研究方法】
発明能力の測定方法はこれまでに確立されてはいないため、心理学の過去の知見を生かし、適切な測定方法を考案する。例えば、心理学の古典であるデューイの問題解決学習法は、学生が自ら主体的に考えて行動することにより問題解決法を見いだしていくというものであり、本研究で想定する発明能力と概念的に対応するため、これを足がかりに進めていく。本研究では、様々なタスクを研究者が考案し、それらを実際にサピエンスである実験参加者に行わせることで、課題の妥当性を検証する。発明能力は潜在概念であるため、単独の課題でそれを測定することは困難だと思われる。そこで、成績の相関が高いいくつかの課題群を開発することを試みる。
研究課題名:地域間交流が新文化を創発するメカニズムの解明
研究代表者:堀内史朗
所属 ・ 職名:明治大学・研究知財戦略機構・研究推進員
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
遠く離れた集団との文化交流があると、あるいはそのような文化交流を可能にする社会制度がその種に備わっていると、全体としての文化の多様性が高まり、各集団は緊急時に必要な文化をすぐに学習することができる。このような文化交流による学習が、各集団における個体学習と重なることで新人に優れた石器文化を可能にし、旧人との交替劇を可能にした。・・・以上のような、文化交流が交替劇において重要な要素となったという仮説を理論的・実証的に検証するのが本研究の目的である。
【研究方法】
本研究は、コンピューターシミュレーションによる理論的な研究と、日本の山村を対象とした実証的な研究を、重要な手法として進めていく。まずは理論研究を質的な調査によって補完し、そうして得られた結果を大規模な量的調査によって検証する予定である。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
2011年度は、コンピューターシミュレーションによって文化の多様性と新文化の創発がおこる条件を数値的に明らかにすると共に、山村の郷土芸能に関する聞き取り調査によって他地域との交流がどのような文化上の刷新をもたらしたかを明らかにする。
【研究方法】
理論研究
コンピューター上に、集団内でエージェントが相互作用するエージェント・ベース・モデルを構築する。各集団にて個体学習と社会学習がおこなわれ、直面する環境に適した文化がその集団に定着する。集団間でもエージェントの相互作用がおこなわれる。もし交流範囲が近距離に限定していれば、多数派文化が少数派文化を駆逐する結果、文化が単一化する傾向が出てくるだろう。だが、もし遠く離れた集団間でも文化交流があり、また交流および学習の仕方が何らかの条件を満たせば、文化の多様性が高まり、そして緊急時に必要な文化を獲得することが可能になるのではないか。この可能性を、モデルの分析を通じて考察する。
実証研究
九州の山村で守られてきた伝統芸能、とくに夜神楽に注目して調査を進める。すでにこれまでの調査で、観光客との交流によって新しい夜神楽が作られた事例が明らかになっている。今年度は観光客だけでなく他地域の夜神楽との交流が、具体的にどのように地域の夜神楽に新しい文化、ないしは古い文化の見直し(温故知新)につながっていくかを個々の聞き取り調査によって確認し、2012年度の量的調査に備える予定である。
関連業績
【口頭発表】
  • 堀内史朗
    2010「多文化が保たれるメカニズム:空間構造のある調整ゲームABMによる分析」数理社会学会.獨協大学.2010.9.11.
  • 中橋渉, 堀内史朗
    2010「初期人類における繁殖形態の進化」日本人類学会.伊達市.2010.10.2.
  • 堀内史朗
    2010「ホスト―ゲストの相互作用:高千穂夜神楽に注目して」日本社会学会.名古屋大学.2010.11.7.
【雑誌掲載論文】
  • 堀内史朗
    (in press)「コミュニティ形成に資する仲介者の性質:エージェント・ベースモデルによる分析」理論と方法26
  • Shiro Horiuchi, Hiroyuki Takasaki
    (in press) "Boundary nature induces greater group size and group density in habitat edges: an agent-based model revealed." Population Ecology
【著書・同掲載論文】
  • Shiro Horiuchi
    (in press) "The boundary between "bad" and "good" outsiders and the construction of unifying elements underpinning rural communities." In: Advances in Sociology Research Series, Nova Science Publishers.
研究課題名:頭蓋形態から脳区分を推測するための指標の開発
研究代表者:小林 靖
所属 ・ 職名:防衛医科大学校・解剖学講座・教授
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
ヒトを含めた現生種の頭蓋と脳の相関を解析することにより、頭蓋の鋳型から脳区分を推測する指標を開発する。
【研究方法】
解剖実習用献体ならびにマカクザルを用いて頭蓋冠の鋳型を作成し、また前頭骨眼窩板等を撮影記録し、そこで観察可能な構造の位置と脳溝のパターンとの相関を解析する。また医療用放射線画像を用いて、頭蓋形態の各種指標を計測し、頭蓋形態の個体差と脳形態の個体差の相関を解析する。両者によって、脳形態の変異に相関する頭蓋の指標を選定する。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
解剖学実習用献体を用いたヒトでの所見を中心に、頭蓋形態と脳区分の相関について解析する。
【研究方法】
解剖学実習用献体約20体から鋳型を作成し、これまでに作成した例と合わせて、観察可能な頭蓋構造の位置と脳溝のパターンとを記録しそれらの相関を解析する。また、医療画像の一部の例で頭蓋形態の各種指標の計測を開始する。
関連業績
【雑誌掲載論文】
  • 小林 靖
    2011「特集大脳辺縁系再考 - 辺縁系皮質研究の進展」『分子精神医学』11(1): 2-7.
研究課題名:模倣行為と動機付けの連関における神経基盤の解明
研究代表者:川道拓東
所属 ・ 職名:生理学研究所・大脳皮質機能研究系・特任助教
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
模倣学習は社会学習の一つであり、創造性に富んだ現代人ならではの高度な現代社会形成に寄与すると考えられる。本研究では、現代人の創造性の解明に向けて、模倣学習を推進する動機付けに関する脳機能をターゲットとする。具体的には、模倣学習の動機は感情面に負うところが大きいことに着目し、実験的研究により感情的な模倣行為である共感とその動機付けの脳機能地図を作成する。
【研究方法】
共感のどういった要因が模倣行為における報酬、すなわち、動機付けとなりうるのかという点を調査するために、心理学的な課題を開発する。実験手法としては、共感を心理実験で扱うにあたり重要な2者間での自然なやりとりが可能な2個体の表情・脳活動を同時に計測するfMRI同時計測装置を活用する。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
感情的な模倣行為である共感は、他者の感情を理解し、それと同様の感情を生起するものである。社会生活においては、共感行為自体をフィードバックとして(1)自己の共感行動の妥当性を評価し、評価結果に応じて(2)模倣行動を促進すると考える。本年度は、動機付けにおいて重要な(1)共感行為の評価を対象として、共感の動因の神経基盤を検証する。これにより、ヒト特有の社会学習である模倣行為による学習を推進するための動機付けに関して神経科学的見地から検証することを目指す。
【研究方法】
本研究においては、(1)心理学的課題の開発(2)非侵襲的脳機能計測手法による評価を推進する。
(1)心理学的課題の開発:共感は2者間で行なわれるものであり、共感対象者・共感者では立場が異なる。そこで、この立場の違いを考慮に入れて、共感行動の評価を被験者に課す実験デザインを構築する。この実験デザインに基づき実験手法(プログラム・刺激用マテリアル)を開発する。開発した実験手法に関して、評価者による妥当性の評価を行う。
(2)妥当性が検証された後に、fMRIを活用した実験的研究により、共感評価段階における神経基盤を検証する。
関連業績
【口頭発表】
  • H. Kawamichi, H.C. Tanabe, H. K. Takahashi, K. Shimada and N. Sadato
    Directed altruism induced by "warm-glow" through empathy: an fMRI study 17th Annual Meeting of the Organization for Human Brain Mapping, Québec City, Canada, June 26-30.
研究課題名:内発的報酬による社会・個体学習強化の神経基盤に関する研究
研究代表者:水野 敬
所属 ・ 職名:独立行政法人理化学研究所・分子イメージング科学研究センター・研究員
全体研究計画(2011-2012)
【研究目的】
旧人・新人の学習能力差を、学習行動を司る神経基盤の形態差に基づいて比較解剖的に検証する手法は大変興味深い。両者の化石脳復元による形態学的な違いを明らかにし、現生人類を対象とした神経心理学的手法に基づく社会学習と個体学習の脳局在と、その形態差の比較検討により、旧人と新人の学習能力差を立証できると考えられる。当該領域研究では、社会学習に関しては模倣学習の神経基盤、個体学習に関しては思考錯誤を通じて報酬を手掛かりに環境に適応する学習制御(強化学習)の神経基盤をターゲットとしている。さらに、個体学習においては、学習の強化因子として社会報酬(他者からの承認・賞賛)を挙げ、その効果を検証するモデルを提案している。本研究では、さらに、他の学習の強化因子として、学習行動に直結する学習意欲喚起に資する内発的報酬(達成感・有能感)を挙げ、有能感の神経基盤を明らかにしたうえで、内発的報酬による強化学習の神経科学的背景を明らかにすることを目的とする。さらに、内発的報酬は社会学習における模倣学習の促進にも寄与すると仮説を立て、その立証研究も遂行する。
【研究方法】
(1)有能感の神経基盤研究
有能感は、過去の自らの成績に比し、現在の成績が優れていることで生じる感覚であると捉え、フィードバックの知覚に関する神経活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により計測し有能感関連脳部位を見出す。また、認知課題成績に対する満足度を自己記入式質問票により記録点数化し、この主観評価スコアと有能感関連部位の賦活度の相関解析により、有能感の神経基盤を同定する。
(2)内発的報酬(達成感・有能感)による社会学習・個体学習強化の神経基盤研究
当該領域研究班と連携し、確立した強化学習・模倣学習課題に対し、達成感と有能感を喚起する刺激を組み込み、これらの内発的報酬による学習促進効果を、fMRIを用いて神経科学的に検証する。学習課題成績の評価による学習到達度、学習に関わる脳領域の賦活度、および内発的報酬関連脳部位の賦活度の相関解析を実施する。
2011年度研究実施計画
【研究目的】
旧人・新人の学習能力差に関する学習行動を司る神経基盤の形態差に基づく比較解剖的検証研究の一環として、本研究では、学習行動の強化因子に主眼を置き、学習行動に直結する学習意欲喚起に資する有能感の神経基盤をfMRIにより明らかにすることを目的とする。
【研究方法】
(1)有能感の神経基盤研究
有能感は、過去の自らの成績に比し、現在の成績が優れていることで生じる感覚であると捉え、フィードバックの知覚に関する神経活動をfMRIにより計測し有能感関連脳部位を見出す。また、認知課題成績に対する満足度を自己記入式質問票により記録点数化し、この主観評価スコアと有能感関連部位の賦活度の相関解析により、有能感の神経基盤を同定する。
関連業績
【口頭発表】
  • 水野 敬、友田明美、米田哲也、渡辺恭良
    2011「fMRIを用いたADHDにおける報酬系の神経基盤に関する検討」『第2回日本AD/HD学会第2回総会』東京、2011. 3. 6.
  • Mizuno, K., M. Tanaka, T. Miike, K. Imai-Matsumura, N. Sadato and Y. Watanabe
    2010 Interdisciplinary research of neuroscience and education for elucidating the neural mechanisms of fatigue and motivation to learn in children and adolescents. The 16th Takeda Science Foundation Symposium on Bioscience "Casting light on life", Tokyo, Japan, December 1.
  • Mizuno, K
    2010 Investigation of neural substrates associated with fatigue and motivation using functional neuroimaging. The Thirteenth Conference of Peace through Mind/Brain Science, Hamamatsu, Japan, February 23.
  • 水野 敬
    2010「小児の疲労と意欲の脳科学」『小児の疲労意欲研究セミナー』熊本、2010. 4. 23.
  • Tanaka, M. K. Mizuno and Y. Watanabe
    2008 Functional neuroimaging on fatigue and motivation. The 51st Annual Meeting of the Japanese Society for Neurochemistry, Toyama, Japan, September 13.
  • Mizuno, K., M. Tanaka, S. Tajima, H. C. Tanabe, Y. Kataoka, H. Onoe, N. Sadato and Y. Watanabe
    2008 Neural substrates of motivation to learn and fatigue sensation. The 2008 World Molecular Imaging Congress, Nice, France, September 12.
  • Mizuno, K., M. Tanaka, H. C. Tanabe, H. Onoe, N. Sadato and Y. Watanabe
    2008 Neural substrates of academic achievement motivation related to neural mechanism of fatigue. International Conference on Fatigue Science, Okinawa, Japan, September 5.
  • Fukuda, S., E. Yamano, K. Mizuno, T. Joudoi, J. Kawatani, M. Tanaka, M. Takano, A. Tomoda, K. Imai-Matsumura, T. Miike and Y. Watanabe
    2008 Motivation for learning, fatigue and sleep; from the results of the cohort study. International Conference on Fatigue Science, Okinawa, Japan, September 5.
  • Fukuda, S., E. Yamano, T. Joudoi, K. Mizuno, M. Tanaka, J. Kawatani, M. Takano, A. Tomoda, K. Imai-Matsumura, T. Miike and Y. Watanabe
    2008 The association between effort-reward imbalance for learning and fatigue in school children. International Conference on Fatigue Science, Okinawa, Japan, September 5.
  • 田中雅彰、水野 敬、福田早苗、高野美雪、山野恵美、川谷淳子、上土井貴子、友田明美、松村京子、三池輝久、渡辺恭良
    2008「小中学生の意欲・疲労と学習効率に関するコホート研究 -意欲・疲労と高次脳機能-」『第4回日本疲労学会総会・学術集会』熊本、2008. 2. 16.
  • 山野恵美、福田早苗、水野 敬、田中雅彰、上土井貴子、川谷淳子、友田明美、松村京子、三池輝久、渡辺恭良
    2008「小中学生の意欲・疲労と学習効率に関するコホート研究 -気質・性格と疲労の関連性の時系列的研究-」『第4回日本疲労学会総会・学術集会』熊本、2008. 2. 15.
  • Mizuno, K., M. Tanaka, H. Onoe, N. Sadato and Y. Watanabe
    2007 Neural substrates of motivation. The 84th Annual Meeting of the Physiological Society of Japan, Osaka, Japan, March 21.
  • Tanaka, M., S. Fukuda, K. Mizuno, K. Imai-Matsumura and Y. Watanabe
    2007 Measurement of motivation and fatigue. The 84th Annual Meeting of the Physiological Society of Japan, Osaka, Japan, March 21.
  • 山野恵美、福田早苗、水野 敬、田中雅彰、吉田かおる、上土井貴子、川谷淳子、友田明美、松村京子、三池輝久、渡辺恭良
    2007「小中学生の学習意欲・疲労と学習効率に関するコホート研究 -気質・性格と疲労の関連性の検討-」『第3回日本疲労学会総会・学術集会』東京、2007. 6. 30.
  • 福田早苗、水野 敬、田中雅彰、山野恵美、吉田かおる、上土井貴子、川谷淳子、友田明美、松村京子、三池輝久、渡辺恭良
    2007「小中学生の学習意欲・疲労と学習効率に関するコホート研究 -小中学生の意欲・疲労と努力報酬バランス-」『第3回日本疲労学会総会・学術集会』東京、2007. 6. 30.
  • 水野 敬、福田早苗、田中雅彰、山野恵美、吉田かおる、田島華奈子、高野美雪、川谷淳子、上土井貴子、友田明美、三池輝久、渡辺恭良
    2007「小中学生の学習意欲・疲労と学習効率に関するコホート研究 -小児慢性疲労症候群における注意・ワーキングメモリ機能の検討-」『第3回日本疲労学会総会・学術集会』東京、2007. 6. 30.
  • 水野 敬
    2007「神経心理学的手法を用いた意欲と達成感の関連性の検討」『静岡県中学校技術・家庭科研究会志太地区研修会』静岡、2007. 3. 3.
  • 田中雅彰、水野 敬、福田早苗、田島世貴、定藤規弘、渡辺恭良
    2006「疲労および意欲の脳神経メカニズムについての検討」『第2回日本疲労学会総会・学術集会』大阪、2006. 7. 22.
  • Mizuno, K., A. Ishii, M. Tanaka, H. C. Tanabe, H. Onoe, N. Sadato and Y. Watanabe
    2005 Neural substrates based on academic motivation in college students. The First International Symposium on Cohort Studies Based on Brain-Science (1st ISCS-BBS), Tokyo, Japan, November 29.
  • Mizuno, K., A. Ishii, M. Tanaka, H. Onoe, N. Sadato and Y. Watanabe
    2005 Motivation related to external or internal rewards in behavioral and fMRI study. Society for Neuroscience 35th Annual Meeting, Washington, November 12-16.
  • Mizuno, K., A. Ishii, M. Tanaka, H. Onoe, N. Sadato and Y. Watanabe
    2005 Measures of motivation and behavioral changes for neuroimaging in healthy volunteers. Neuroscience 2005, Yokohama, Japan, July 27.
【雑誌掲載論文】
  • Kawatani, J., K. Mizuno, M. Takano, T. Joudoi, S. Shiraishi, S. Fukuda, Y. Watanabe and A. Tomoda
    Cognitive dysfunction and mental fatigue in childhood chronic fatigue syndrome - A 6-month follow-up study. Brain & Development, in press.
  • Mizuno, K., M. Tanaka, S. Fukuda, K. Imai-Matsumura and Y. Watanabe
    Relationship between cognitive functions and prevalence of fatigue in elementary and junior high school students. Brain & Development, in press.
  • Mizuno, K., M. Tanaka, S. Fukuda, T. Sasabe, K. Imai-Matsumura and Y. Watanabe
    2011 Changes in cognitive functions of students in the transitional period from elementary school to junior high school. Brain & Development 33(5): 412-420.
  • Mizuno, K., M. Tanaka, S. Fukuda, K. Imai-Matsumura and Y. Watanabe
    2011 Relationship between cognitive function and prevalence of decrease in intrinsic academic motivation in adolescents. Behavioral and Brain Functions 7(1): 4.
  • Fukuda, S., E. Yamano, T. Joudoi, K. Mizuno, M. Tanaka, J. Kawatani, M. Takano, A. Tomoda, K. Imai-Matsumura, T. Miike and Y. Watanabe
    2010 Effort-reward imbalance for learning is associated with fatigue in school children. Behavioral Medicine 36(2): 53-62.
  • Yamano, E., S. Fukuda, T. Joudoi, K. Mizuno, M. Tanaka, Y. Kataoka, J. Kawatani, M. Takano, A. Tomoda, K. Imai-Matsumura, T. Miike, F. Matsuda and Y. Watanabe
    2010 Temperament and character as predictors of fatigue-induced symptoms among school children in Japan: A 1-year follow-up study. Comprehensive Psychiatry 51(3): 256-265.
  • 水野 敬、渡辺恭良
    2010「子どもの疲労と学習意欲の科学」『体育の科学(特集:子どもの運動と心身の発達)』60(7): 436-442.
  • Tanaka, M., S. Fukuda, K. Mizuno, H. Kuratsune and Y. Watanabe
    2009 Stress and coping style are associated with severe fatigue in medical students. Behavioral Medicine 35(3): 87-92.
  • Tanaka, M., K. Mizuno, S. Tajima, T. Sasabe and Y. Watanabe
    2009 Central nervous system fatigue alters autonomic nerve activity. Life Sciences 84(7-8): 235-239.
  • Tanaka, M., K. Mizuno, S. Fukuda, Y. Shigihara, S. Tajima and Y. Watanabe
    2009 Personality traits associated with intrinsic academic motivation in medical students. Medical Education 43(4): 384-387.
  • 水野 敬
    2009「疲労による作業能率低下の解析」『医学のあゆみ(最新・疲労の科学 –日本初:抗疲労・抗過労への提言)』228(6): 654-658.
  • Yoshida, M., M. Tanaka, K. Mizuno, A. Ishii, K. Nozaki, A. Urakawa, Y. Cho, Y. Kataoka and Y. Watanabe
    2008 Factors influencing the academic motivation of individual college students. International Journal of Neuroscience 118(10): 1400-1411.
  • Mizuno, K., M. Tanaka, A. Ishii, H. C. Tanabe, H. Onoe, N. Sadato and Y. Watanabe
    2008 The neural basis of academic achievement motivation. NeuroImage 42(1): 369-378.
  • 渡辺恭良、田中雅彰、水野 敬
    2008「疲労の脳内機序(Brain Dysfunction in Fatigue and Chronic Fatigue)」『精神医学{疲労と精神障害(ストレス-疲労-精神障害について)}』50(6): 527-532.
  • 水野 敬、渡辺恭良
    2008「疲れはどこで感じるのか?-脳機能イメージングを用いた疲れの脳科学-」『現代化学(特集:疲労の科学)』444: 30-33.
  • Tomoda, A., K. Mizuno, N. Murayama, T. Joudoi, T. Igasaki, M. Miyazaki and T. Miike
    2007 Event-related potentials in Japanese childhood chronic fatigue syndrome (CCFS). Journal of Pediatric Neurology 5: 199-208.
  • Tanaka, M., N. Sadato, T. Okada, K. Mizuno, T. Sasabe, H. C. Tanabe, D. N. Saito, H. Onoe, H. Kuratsune and Y. Watanabe
    2006 Reduced responsiveness is an essential feature of chronic fatigue syndrome: A fMRI study. BMC Neurology 6:9.
【著書・同掲載論文】
  • Mizuno, K. and Y. Watanabe
    2008 Utility of an advanced trail making test as a neuropsychological tool for an objective evaluation of work efficiency during mental fatigue. In Watanabe Y., B. Evengård, B. H. Natelson, L. A. Jason and H. Kuratsune (eds.) Fatigue Science for Human Health. 47-54. Springer.

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